「文学街」第238号(東京)作品紹介(1)
【「神風特別攻撃隊と太平洋戦争」吉岡昌昭】
非常に優れた評論である。自分が、これまで読んできた同人誌に掲載された太平洋戦争論という観点からすると、これほど優れた視点のものを読んだことがない。日本では大東亜戦争といっていたが、太平洋戦争が一般的になりつつある。この戦争の始まりから、終わりまでの経過を書いたもの。
作者は、この戦争が、外交交渉や指導者の適切な判断、行動があれば、しなくてもよいものではなかったか?それが、なぜ避けることができなかったのか?の疑問に答を出す方向で、経過を観察、見つめている。
軍神扱いされている山本五十六への視線も冷静である。共感できる。
戦争に関するものは、これまで感情的になったり、反省したり、さまざまな視点で描かれているが、この評論のように何故起きたのか? どうすれば戦争というものが防げるのか、という問題意識から描かれたものはそう多くない。
日本人の国民性なのか、それとも人間性なのかわからないが、とにかく軍部、官僚にすべてを委ねてしまう国民意識の特徴を鋭く指摘している。
これを読んで、近年の経験を思い出した。ある年の仕事帰りのある夜、街に人影が少なく、いつもより奇妙に静かであった。マンションや家々の窓には明かりがついていて、時々、それらの窓から歓声が聞こえる。家に帰って見ると、自分の家の者までが、テレビ画面に見入っている。
サッカーのワールドカップの日本チームの試合の日だった。新聞もテレビも、それが人生のすべてであるかのように煽りたてると、まるでそれを望むように乗ってしまう人々に、ある不気味さを感じた。情報操作に抵抗するどころが、待ち受けているその心理が、戦争でもなんでも、勢いで走らせてしまうのではないかと、いやな気がしたのだった。
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