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2007年6月28日 (木)

「構想」42号(長野県)作品紹介(1)

【「彼岸独白」岩谷征捷】
作者が、夫の不実に悩ませられるTという女性60代女性について、モデルにして作品を書こうと思っている矢先に、女性は自死してしまう。その女性の死せる魂の独白として、その心境を綴る。怨みの情念を単なる独りの女性だけの問題としてではなく、人間的な普遍的情念になるまで、丁寧に美的に描かれている。社会風潮的には、ありふれた境遇を描きながら、いかにも繊細な筆致で文学の世界が構築されている。
【「じょうこじさん」崎村裕】
信州のお寺の住職さんの境遇と人生が、エピソードを交えて描かれている。普段知ることのない仏教寺と檀家の関係がなんとなくユーモラスに描かれている。浄土真宗なので、禅僧と違って人間的であり、この世界の世渡りのすべなどもリアルである。住職が脳卒中の症状で一度倒れているのに、周囲の人の対応が悪いために死んでしまった。葬儀の時に、身内の者が村人を非難して終る。それが独特の余韻になっている。

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2007年6月27日 (水)

文芸時評6月(読売新聞6月26日)

《対象作品》
初代三島賞受賞者・高橋源一郎(59)&第20回受賞者・佐藤友哉(26)記念対談「文学への責務が残る」(新潮)/星野智幸(41)「切腹」(すばる)/野田秀樹(51)「THE BEE」(新潮)/玄月「眷族」(群像)/辻原登(61)「チバシリ」(文学界)/新元良一(47)「スケネゥタディ」(新潮)/都甲幸治「村上春樹の知られざる顔」(文学界)。=担当・山内則史記者。
【注目のエッセー】
平田俊子(詩人・作家)・選=堀江敏幸「バン・マリーへの手紙」(岩波書店)/多和田葉子「溶ける街 透ける路」(日本経済新聞社)/石牟礼道子・伊藤比呂美「死を想うわれらも終には仏なり」。

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2007年6月26日 (火)

平野久美子さん著書「トオサンの桜ー散りゆく台湾の中の日本」を語る

台湾の中の日本の悲劇を語る。
青春時代衣にビジョンをもった愛国意識を得て、影響された台湾の人々の話だが、良き思い出と悪い思い出の人さまざまなのであろう。

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2007年6月21日 (木)

文芸中部」第75号・作品紹介(2)

【随筆「クルターク『カフカ断章』作品二十四」堀井清】
ハンガリーの現代音楽作曲家・クルターク「カフカ断章」二十四という音楽が存在するという。まったく知らなかったので驚きをもって読んだ。しかも筆者は、本格的オーディオ装置を愛好しているらしい。ヘッドホンで聴くことに抵抗し、体のそとから感じる音楽を本物とする確信には、共感するものがあある。また、芥川賞作品「ひとり日和」について、長くて同人誌小説を読むようだ、という感想が面白い。身辺雑事から離れていないところが、そうおもわせるのであろう。
【「占い師」堀井清】
家庭から見放されたか、世捨て人になったような高齢者らしい「私」が、見知らぬ町を彷徨する。妻の運転する自動車の助手席に居たときに、私は横からそのハンドル操作を邪魔して事故を誘発するイメージを抱いた途端に、その気配を察知した妻に、「何を考えているの」と察知されてしまうエピソードがある。また、自殺した友人のことも語られる。とすると、家族の姿も友人も「私」の分身として描かれているようだ。街を彷徨いながら、見知らぬ人々を観察するが、それが自分の分身としての解釈につながるところがある。基本テーマは人の抱える根源的な孤独である。文章がなめらかで、肌触りのよさを感じさせる。

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2007年6月20日 (水)

「文芸中部」第75号・作品紹介(1)

【「電話」福富奈津子】
「私」の父親は早くに亡くなり、母親との二人暮らしの末、母は78歳でなくなっている。母と同い年で、いとこの滝乃さんは、現在97歳で健在である。そのタキノさんから今でも電話がかかってくる。そこからかこの出来事が、すこしずつ語られる。その記憶の掘り起こしのなかで、タキノさんが昔には「私」の父を愛しており、母親がそのことを察知して、交際を続けていたことがわかる。過去の情念の戦いを物語にしたもの。手法が、いわゆる朦朧小説の形式をとっており、中ほどまで読んでも、何が問題なのかわからない。本題を避けるように回り道をして、ある種の雰囲気を形成する。物語の振幅が小さいのだが、微妙なところで読ませる。もっとも、気の短い人には、退屈小説的によめるかもしれない。

【「いきるって」近藤許子】
夫を亡くし、長男をなくし、嫁は縁がなくなったと孫を連れて別居してする。「私」は、長女夫婦のところに身を寄せるが、肩身が狭く、友人の紹介で老人ホームに入ることを考える。実に現代的で浮世の哀しさを感じさせる。

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2007年6月18日 (月)

年金問題の本質

ネットニュース<ゲンダイネット>の記事

年金を食い物にしようとしていた歴史的資料が12日、国会で取り上げられた。「厚生年金記録回顧録」(1986年刊)という本で、年金局年金課長だった花澤武夫という役人が年金制度ができた経緯、背景を語っている。

 例えば――。

「この膨大な(年金)資金をどうするか。これをいちばん考えましたね。何十兆円もあるから、一流の銀行だってかなわない。これを厚生年金保険基金とか財団とか言うものをつくって、その理事長というのは、日銀総裁くらいの力がある。そうすると、厚生省の連中がOBになったときの勤め口に困らない。何千人だって大丈夫だ。これは必ず厚生大臣が握るようにしなくてはいけない」

 要するに最初から天下り目当てだったのである。花澤氏はこうも言っている。

「年金を払うのは先のことだから、今のうちにどんどん使ってしまっても構わない。使ってしまったら先行き困るのではないかという声もあったけれど、そんなことは問題ではない。貨幣価値が変わるから」

 だから、勝手に年金資金を流用したのである。

「柳沢厚労相は『草創期にはそういう支持できない発言があったのは承知しているが、みんながそうではない』と答弁しました。しかし、こうしたDNAは脈々と受け継がれている。だから、国民の年金がなくなったりしているんですよ。この役所は解体しなければダメです」(質問した桜井充参院議員)【2007年6月14日掲載】

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2007年6月17日 (日)

高橋里美さんの格差問題への意見

高橋里美さんの意見は実に素晴らしい。共感できる。
《一部紹介》
 真っ青な空と緑、初夏のすがすがしい空気に触れたときの「幸せ感」は、幸せを普通に味わえる瞬間でもあります。太陽で目覚め、そして、日がまだ出ているうちに仕事から帰れる日があるだけでも、自分自身の幸せ感は倍増します。

 一般市民としては、格差社会を見極めたいわけではなく、日々幸せを感じたいのです。マスメディアが表現する格差を意識して、自分の幸せを人と比べて決めていては、例え格差が良い方の人であっても、永久に「幸福格差感」から抜け出せないように感じます。

《原文》
高橋里美さんのPJオピニオン「格差社会を語ることの意味は?」

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2007年6月16日 (土)

図書新聞」6月16日号「同人誌時評」福田信夫筆

「鳩沢佐美夫がかかわった同人誌(下)」須貝光夫(「コブタン」19号/札幌市)、「若松町原景――三井取材ノートから」堀江朋子(「文芸復興」117号/船橋市)、「旅人島崎藤村―『桜の実の熟する時』をめぐって」鈴木亮一、「俳句歳々」岡島春枝(以上「季節風」105号/国分寺市)、「島崎藤村『山陰土産』の“益田の大谷君”の日記」村上文昭(個人誌「羽鳥通信」17号/藤沢市)、「富士さんとわたし――手紙を読む(28)」山田稔(「VIKING」676号/伊都郡)、「永瀬清子覚書 補遺2 見えないまなざしの下に」藤原菜穂子、「詩人(リルケ)の妻(9)ビロン館」藤坂信子(以上「アンブロシア」19号/熊本市)、「行人去って息まず――末吉孝州のこと」前野園明良(「酩酊船」27号/宍粟市)、「編集後記」&「タクラマカン砂漠縦断の旅」高橋光子(「群青」70号/武蔵野市)、「蒼の涯(二)」清宮零(「風姿」2号/上尾市)、「私の靖国」乾夏生(「槐」25号/佐倉市)、「斎主ものがたり」秋野信子(「多気文学」2号/多気郡)、「父親の目、祖父の目、男の目」荒川義清(「北陸文学」71号/金沢市)、「編集後記」(「新現代詩」創刊号/逗子市)、村岡空・高野喜久雄追悼、「幻化」紫野京子(以上「貝の火」終刊号(16号)/神戸市)。(「文芸同人誌案内」掲示板・よこいさんまとめより)。

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2007年6月10日 (日)

小泉今日子の書評=中島たいこ「建てて、いい?」

<読売新聞6月10日>35歳の独身OLが、40までには結婚しよう、と思ったのが、アパートの階段からゴミ袋を抱えた状態で、転げ落ちた時だ、というような話がある本だという。それが、結婚相手探しから家を建てる執念に変わるらしい。じつに理のある現象だ。
 小泉今日子は、賃貸生活25周年だという。じつに共感できる。かくいう、自分は賃貸生活35周年である。資産はないが、ローンも借金もない。そこには、生活の自由が多くある。
日本人が、政府の政策に従順なのはローンで生活の自由を奪われているからであることに、大きな原因があるのではないだろうか。

 年金、介護保険、失業保険など、国に金を貯めておいてはダメなのだ。たとえば、失業保険でいうと、去年集めた保険料から、次の年の失業者に支払うようにすればいいのだ。失業した人には、その収支決算を示し、前年の保険料を集めで、全失業者に振分けたところ、あなたにはこれだけしか支払えません、と説明するのだ。少なくたってないものはないのだから、納得するであろう。年間ごとの期間で集まった資金を、次の年で使うようにすれば、長期に預ける必要がないし、使い込まれても追及が簡単だ。社会保険庁は、時間がたてばすべてが記録がないといえばいい、そう決めていたのだろう。―――こんなことまで考えさせるところは、小泉今日子の視点の良さである。

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「文芸同人誌評」「週間 読書人」6月15日号=白川正芳氏

(「文芸同人誌案内掲示板・よこいさんまとめ)《対象作品》「書架の中」松永広光(「碑」88号)、「ドラマチック」荒井登喜子(「農民文学」277号、第50回農民文学賞受賞作)、「地球温暖化でどうなるか」杉山恵一(「紅爐草子通信」2号)、「紅爐草子通信」主宰島岡明子著書『蕎麦屋太平記』、「断絶」同人久根淑江著書『アルコールの小曲』、「ねこと部屋」陶山竜子(「孤帆」11号)、「茶の間の柱時計」難波田節子(「季刊 遠近」31号)、「柿食う猫」佐藤史子(「ペガータ」6号)、「長崎・さんた丸や」加茂宗人(「季刊 午前」36号)

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2007年6月 9日 (土)

文芸時評5月=沼野充義氏

<東京新聞5月29日夕刊>《対象作品》昇曙夢(1878~1958)/今福龍太郎「群島―世界論」/川上映子「わたくし率 イン 歯―、または世界」(早稲田文学)/諏訪哲史「アサッテの人」(群像)/講談社・第1回大江健三郎賞・長嶋有「夕子ちゃんの近道」。

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2007年6月 8日 (金)

「文学界」7月号同人雑誌評

(「文芸同人誌案内」掲示板・よこいさんのまとめ)毎月恒例、「文學界」「同人雑誌評」です。今月から評者が勝又浩さんです。「日本経済新聞」の記事から書き起こされていました。
《対象作品》「海峡派往来」木村和彦(「海峡派」109号/北九州市)、「波の花心中」小網春美、「転進」内村晋、「かまきりのヤヌス」武田康宏(以上「北陸文学」71号/金沢市)、「空を泳ぐ」望月廣次郎、「春の遁走」北原文雄、「もとの水」島田陽、「編集後記」(以上「淡路島文学」創刊号/洲本市)、「八月十五日」&「編集後記」豊田一郎(個人誌「孤愁」1号/横浜市)、八田翠・福原文子各エッセイ、「戦時下の“松五郎”」八田昂(以上「周炎」37号/北九州市)、竹内和夫著書『幸せな群島―同人雑誌五十年』、「また夏が来て」竹内和夫、「文政六年の花の雲」森岡久元(以上「酩酊船」22号/宍粟市)、「『野上彌生子日記』を読む」稲垣信子、「朱光院」稲垣瑞雄(以上「双鷲」67号/八王子市)、稲垣瑞雄著書『風の匠』、「紫の山」田口佳子(個人誌「翡翠」23号/東久留米市)、「ビオラ館」西田宣子、「極楽荘ばなし」天谷千香子(「季刊午前」36号/福岡市)、「母の乳液」関幸子、「カラスの塒」竹田凪、「お神札」飛田一歩(以上「湧水」36号/東京都)、「それぞれの深紅」遠野明子、「雲のこと」江時久、「私の靖国」乾夏生(以上「槐」25号/佐倉市)、「廃線X」かしま泰(「ぺがさす」8号/神戸市)、「タクラマカン砂漠縦断の旅」高橋光子、「朝の詩(ポエム)」磯貝景美江(以上「群青」70号/武蔵野市)、「吉原に行く」粂正義、「水没の果てに」岡山和男(以上「七十代」12号/東京都)
ベスト5=「それぞれの深紅」遠野明子、「ビオラ館」西田宣子、「廃線X」かしま泰、「母の乳液」関幸子、「紫の山」田口佳子

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文芸時評5月=川村湊氏

<毎日新聞5月28日夕刊>《対象作品》安達千夏「ダリアと官僚とセックス」(すばる)/木村紅美「ねぐら探し」(文学界)/柴崎友香「主題歌」(群像)/谷崎由衣「舞い落ちる村」(群像)/川上映子「わたくし率 イン 歯―、または世界」(早稲田文学)/蜂飼耳「紅水晶」(群像)。《注目の一冊》村上春樹「うさぎおいしーフランス人」(文芸春秋)。

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2007年6月 6日 (水)

文芸時評5月=加藤典洋氏

<朝日新聞5月30日朝刊>《対象作品》田中和生「文学まであと少し」(文学界)/桐野夏生「メタボラ」(朝日新聞社)/堀江敏幸「めぐらし屋」(毎日新聞社)/群像新人文学賞・諏訪哲史「アサッテの人」/文学界新人賞・円城塔「オブ・ザ・ベースボール」/群像新人文学賞・広小路尚祈「だだだな町、ぐぐぐなおれ」/柴崎友香「主題歌」(群像)/津村記久子「冷たい十字路」(文学界)/楠見朋彦「母の記憶」(文学界)/長薗安浩「空庭」(すばる)/井伊直行「心なき者、恋するべからず」(新潮)/加藤幸子「炎のバッツィー」(新潮)/池澤夏樹・短編集「きみのためのバラ」(新潮社)。

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