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2007年5月14日 (月)

中田 譲 「若桜詩集」の「途上」より=紹介者 江 素瑛

  戦陣訓 
地上五十尺/小高き崖上にわれ立ちて/風に繙くはーー戦陣訓
眼下に見はるかす俯瞰の景/道あり川あり民家あり/澄める空ーー和む風/そしてかぎりなき田園のひろがり
“ 信ハ力ナリ 自ラ信ジ
   毅然トシテ戦フ者常に克ク勝者タリ・・・・・・ ”
声を大にして/美しき荘巌律に酔ひ/瞼とづればーー/足下に現像す野戦の景/砲塁あり鉄條綱あり兵馬あり/燃える空ーー吠える風/そしてたえまなき哨煙弾雨のひらめき

ーーやがての日/
   精悍の豼貅相伍して・・・・・・・
うつつに夢みる/われの姿を

入営近し!/小高き崖上にわれ立ちて/思念は羽搏くーー戦陣訓


 日本統治時代の台湾、「特別志願兵」と選定された中田さん(本名頼襄欽)、21歳、1942年に入隊を控え、純粋な青年が、想像した「美しい戦場」への情熱と憧れを綴られた詩。そこには強制的赤札の徴兵ではなく、あくまでも志願兵であることを注目すべき。終戦、中国国民党が政権交代。テイブン島から生還された中田さんは1947年、ニ・ニ八事件で乱殺された。

 「若桜」は志願兵の美称である。これはこの若くても散った詩人が生前に唯一、親友である陳千武さんと、自家鋼版刻字で作った詩集である。陳さんは、台湾在住だが、その詩集が、日本の出版社から刊行されている。台湾特別志願兵として東ティモールに赴き、かの地に自らの死を隠匿し、詩人として台湾に再生するまでに16年を要した陳千武。台湾住民の生命と愛の追求、世界への呼びかけに満ちたその「陳千武詩集」は、土曜美術社出版販売から刊行。

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