「照葉樹」第3号(久留米市)作品紹介(1)
【「羽ならし」垂水薫】
95歳のおばあさんと暮らす69歳の嫁・文枝が語り手。そこに孫で学校にいけなくなって家にいる玲奈がやってくる。ほかにも孫はいるが、地味な生活をする老人の家にやってくるのは玲奈だけだ。方言、生活の様子、親戚関係のエピソードなどを挟みながら、玲奈が真の肉親愛に触れ、癒され立直る様子を予感させるまでを描く。
「羽ならし」とは、飛び立つ前のことを示すのであろう。実際、動物の脱皮や、鳥の巣立ちは、失敗すれば命を失う一大事件なのである。人間でも生物であるから、別の社会に飛び立つのには大変なエネルギーがいる。それを自覚しない人が増えたようだ。この作品は、不登校の問題を地に足をつけた視点で描く。エピソードの具体的なところもよく、整ったリアルさのが創られている。事実とは限らないが、仕組みに無理がない。人間、中身は甘えんぼ精神が巣食っている。甘い姿勢も必要だと思わせる。最終章には感動して涙が出そうになった。年のせいか。
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