陳千武詩集・「暗幕の形象」(思潮社)より(2)
紹介者 江 素瑛
命の戟-悲しい民族の歌ふ
5 死に臨む
機械と油と原料の匂にうずもれて/虫けらのやうに男や女が動いている中で/お前はお前の生長した姿を見る
頼もしい若者よ/お前を育てたのは父や母ではなく 天皇陛下の御稜威!である/国は戦争で膨脹し 人も物も統制されて/厳格なる規律/死にゆく思想/遠大なる政策/お前の頭脳は無意味に<非常時>で忙殺される
台湾人の皇民化運動とは/日本人の真似を徹底せしめることだ/お前は知恵のない子犬らしい活発さで/日本人そのものの如く振る舞ひ/栄譽ある兵隊の地位を遂に特別「志願」させられる/そして歓呼の声がお前を死の湖へ送り出す/そこに如何なる謀略があらうとも お前は勇敢だ
お前はすっかり日本人気取りで/バシー海峡を渡って南の国を闊歩する/悲しい民族の苦悩は死によって消ゆるべし/正に死に臨み 一群の野蕃な兵隊と共に/泥に寝て 草を噛み 撓みない労苦に甘んじ/原始の花を摘む/お前はすべてを忘れ/全く賢い愚人になる
日本は神の国だ 勝つて負けることなし/強い自負と誇張と 御稜威の光に流れ 流れ流れて/一九四五年八月十五日/悲しい民族の命は闇の中に輝かしく/降伏して 光復する?/死はお前を見捨てたのだ
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