「木曜日」23号(埼玉)作品紹介(1)
【「犬猫メディアリーク」北川佑】
67歳の幻太郎は、まだ高校の非常勤講師をしなければ生活ができない。学校では生徒からも教師からもポンコツ扱いである。猫を飼っているが、この猫が人の意識というか脳細胞にはいって、幻太郎と人間的な会話をすることができる。その脳内世界には、教養のある女性なども進入できる余地があって、猫に媒介された幻太郎はそこでめぐり合ったある女性と気が合い、精神的交流を深めることができた。しかし、その精神的な親愛を肉体の交流でさらに高めるということが出来ない。しかし、彼女の能力支援によって、幻太郎は授業能力が向上し、存在が認められるようになる。面白いとろが多い。とくに、授業風景や脳内デートなど風刺的意味も籠められて興味をそそる。つながりのわるさが見られ、断片的に感じられるところもある。
【「龍の舌」十河順一郎】
1960年代、安保闘争の学生運動で騒然としていた時期の物語。まず、「俺」という主人公がニヒリストであることを語り、田舎から大学の寮生活に入って、全学連らしい活動組織に巻き込まれる。同宿人の鈴木という学生と知り合い、鈴木には、血筋では従姉でありながら、弟姉という関係の女性がいて、好きだったことがある。その後、俺は彼女と出会う。章ごとにタイトルがあって「ミニと脚」「ペシミスト」「火の記憶」「いなかもの」「寮」「娼婦」「追放」などというように、構成がきちんと考えられている。「龍の舌」というのは、主人公が天空に観る幻影のことで、これが物語全体に振りかけたスパイスの役目をしている。作風はハードボイルドミステリーのスタイルで、犯罪も出てくる。話も面白く、テンポよく読ませる力作である。純文学というより、人間存在の闇を描いた密度の高い秀作読み物という感じ。米国ホレス・マッコイの名作「廃馬を撃て」の日本版に匹敵する出来上がり。60年代の学生運動を背景にしては、自分も作品を書いたことがあるが、較べるとこの作品の方が大人びていて巧いと思った。――(関係ないか……。)
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