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2007年5月20日 (日)

「木曜日」23号(埼玉)作品紹介(2)

【「冷たい水」坪倉亜矢】
ホームヘルパーをしている葉子は、仕事が空いたときに、病院への派遣の仕事を引き受ける。そこで、病院で働く人々の知られざる事情と内情を働きながら知る。その仕事が詳しくレポートされる。普通は、患者としての病院を知ることは多いが、働いて支える側のことは一部しかわからない。裏方の仕事の詳細を描きながら文芸作品にしている。働く人々の描写、とくに仕事ぶりと性格をうまく関連させているため、生き生きと表現されているからだ。介護する側から見た患者への感情も、生と死の隙間の挟まった存在感を簡潔に表現している。

同人誌に描かれてきた介護関連作品というものは、6年前に自分が月報で紹介してきた事例からすると、最初のこの題材にふれた小説は、親の残す遺産をめぐる子供達のエゴイズムの物語になっていて、介護の実態は附けたりのような、観念的なものであった。それから1~2年すると、医学的な知識を盛り込んだ介護関連小説の人生回顧的なものに出会うようになった。現象がリアル把握されてくる。実体験により作品化することが多くなったのであろう。そして、この作品では、介護者の分野に題材を広がってきていることが示されている。
引きこもりを題材にした小説もそうだが、社会の現状を把握し小説に表現するには、現実から少し後になってからになるようだ(プロの時流作家とそこが異なる)。社会的な変化を客観的に把握するには、ある時間が必要なのだ。人間の認識力がそういうものだとすると、物事の早い対応には、拙速が付き纏うというリスクを抱えることになるのかもしれない。

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