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2007年4月14日 (土)

 岡田すみれこさん詩集より  「歩く」  紹介・江 素瑛(投稿)

岡田すみれこ・詩集「「もう帰るところはありません」(ポエトリージャパン出版)より
         ☆
「歩く」

ここは泥の海ではないはずなのに   
なかなか前へ進んで行かない 
「何故?」という無意味な疑問が   
今日も足にまとわりつき   
どうにか辿りついたのは   
コドモの病院    
彼女は何度も入院を繰り返し
わたしは数え切れないくらい通いつめた    
(コドモだった娘も十数年経って   
もうすぐ二十二歳になる) 
わたしは時々   
大きさの合わない長靴をはいているような  
気分になる    
遅遅として進まない足は    

以下・・・・、
病院からの帰リ道/リコンという岐路を眺めている/ここは泥の海ではないはずだ/見上げれば空に雲も浮かんでいる/けれどリピートされるコドモの病気/堆積された不満に漂うリコン/バクバクと大きい長靴をはいて/その靴を選ぶしかなかった自分を/憐れにも思いながら/今日もわたしは/同じような場所にいる/歩こうとすると水が入って重い/重くて冷たくて気持ちが悪い/ただ前を見ようとする意思だけが/自分を支えている/コドモの病気や/わたしたちのリコンは/すぐそこにある/のろのろと歩き出すしかない
          
  
小児から入退院を繰り返すわが娘を抱えながら、母として、人妻として、努力する。結婚してわかる調和と不調和、この世に離婚を考えない結婚生活は、果たしてあるのだろうか。心になにかの不協和音をかなでながら、歩く、歩く、前へ進むしかありません。それが人生というものなのでしょうか。
 「歩く」もそうですけれども、この詩集は、ほかにも「夫」と「わたしたち」と「恋人」織り込んで、どこでもいる熟年夫婦の有様と心理を、生き生きと絵のように表現しています。そのなかの「夫婦」は、興味深い作品です。それぞれの抱く日常の生活から愛の形を、薬草から成分抽出をするかのように取り出しみせています。


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コメント

すみれこさま。
あちゃ~、私の勝手な深読みでしたか・・・。面目ないです。でも、それがまた言葉の面白さでもありますよね。

投稿: Lydwine | 2007年5月22日 (火) 04時58分

「リコン」が「離魂」を連想させる・・・!
なるほど、恐ろしげな雰囲気が漂っていますね。
こうして、感想をいただくことが出来るのは嬉しいし面白いです。
さまざまな角度からの視線を受けることが
できるので・・・、。

投稿: すみれこ | 2007年5月12日 (土) 14時17分

「リコン」と片仮名で書かれると、「離婚」と同時に「離魂」をも連想させますね。「離魂」と見たとき、「わたしたちのリコンは/すぐそこにある」という文章が恐ろしげです。
すると、「コドモ」は? 「子供」でも「娘」でもなく「コドモ」と書かれることに、いわくいい難い不気味さがあります。「コドモだった娘も十数年経って/もうすぐ二十二歳になる」といいながら、やはり「コドモ」と呼ぶことの「わたし」にとっての「彼女」の在りようが、不気味です。

投稿: Lydwine | 2007年4月28日 (土) 01時00分

思わぬところで、取り上げていただき、とても嬉しいです。
初めての詩集、ドキドキです。

病気の子供、夫婦問題、そしてわたしの創作活動、も含めて
これからどうなるのかしら??と思うことばかり。

多くのみなさまに助けていただきながら、肩の力を抜いて
ゆっくり「歩いて」行こうと思います。ありがとうございました。

投稿: すみれこ | 2007年4月15日 (日) 10時57分

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