岡田すみれこさん詩集より 「歩く」 紹介・江 素瑛(投稿)
岡田すみれこ・詩集「「もう帰るところはありません」(ポエトリージャパン出版)より
☆
「歩く」
ここは泥の海ではないはずなのに
なかなか前へ進んで行かない
「何故?」という無意味な疑問が
今日も足にまとわりつき
どうにか辿りついたのは
コドモの病院
彼女は何度も入院を繰り返し
わたしは数え切れないくらい通いつめた
(コドモだった娘も十数年経って
もうすぐ二十二歳になる)
わたしは時々
大きさの合わない長靴をはいているような
気分になる
遅遅として進まない足は
以下・・・・、
病院からの帰リ道/リコンという岐路を眺めている/ここは泥の海ではないはずだ/見上げれば空に雲も浮かんでいる/けれどリピートされるコドモの病気/堆積された不満に漂うリコン/バクバクと大きい長靴をはいて/その靴を選ぶしかなかった自分を/憐れにも思いながら/今日もわたしは/同じような場所にいる/歩こうとすると水が入って重い/重くて冷たくて気持ちが悪い/ただ前を見ようとする意思だけが/自分を支えている/コドモの病気や/わたしたちのリコンは/すぐそこにある/のろのろと歩き出すしかない
小児から入退院を繰り返すわが娘を抱えながら、母として、人妻として、努力する。結婚してわかる調和と不調和、この世に離婚を考えない結婚生活は、果たしてあるのだろうか。心になにかの不協和音をかなでながら、歩く、歩く、前へ進むしかありません。それが人生というものなのでしょうか。
「歩く」もそうですけれども、この詩集は、ほかにも「夫」と「わたしたち」と「恋人」織り込んで、どこでもいる熟年夫婦の有様と心理を、生き生きと絵のように表現しています。そのなかの「夫婦」は、興味深い作品です。それぞれの抱く日常の生活から愛の形を、薬草から成分抽出をするかのように取り出しみせています。
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コメント
すみれこさま。
あちゃ~、私の勝手な深読みでしたか・・・。面目ないです。でも、それがまた言葉の面白さでもありますよね。
投稿: Lydwine | 2007年5月22日 (火) 04時58分
「リコン」が「離魂」を連想させる・・・!
なるほど、恐ろしげな雰囲気が漂っていますね。
こうして、感想をいただくことが出来るのは嬉しいし面白いです。
さまざまな角度からの視線を受けることが
できるので・・・、。
投稿: すみれこ | 2007年5月12日 (土) 14時17分
「リコン」と片仮名で書かれると、「離婚」と同時に「離魂」をも連想させますね。「離魂」と見たとき、「わたしたちのリコンは/すぐそこにある」という文章が恐ろしげです。
すると、「コドモ」は? 「子供」でも「娘」でもなく「コドモ」と書かれることに、いわくいい難い不気味さがあります。「コドモだった娘も十数年経って/もうすぐ二十二歳になる」といいながら、やはり「コドモ」と呼ぶことの「わたし」にとっての「彼女」の在りようが、不気味です。
投稿: Lydwine | 2007年4月28日 (土) 01時00分
思わぬところで、取り上げていただき、とても嬉しいです。
初めての詩集、ドキドキです。
病気の子供、夫婦問題、そしてわたしの創作活動、も含めて
これからどうなるのかしら??と思うことばかり。
多くのみなさまに助けていただきながら、肩の力を抜いて
ゆっくり「歩いて」行こうと思います。ありがとうございました。
投稿: すみれこ | 2007年4月15日 (日) 10時57分