「零文学」第4号(東京)=小野里敬裕の評論など
【評論「沖縄小説について」小野里敬裕】1972年に本土復帰をし、その後の万博など政治的経済政策により、沖縄の地域的風土と文学の関係を検証したもの。政府による沖縄の文化の顕彰には、常に政策的な意図が含まれることが、如実に表れるものがある。短くはあるが、労作である。更なる続編があるらしい。その中に、米国の沖縄への見方の変化、基地移転問題と日本政府との交渉過程なども時系列に並べてみたら、より一般性をもつのではないか、とも思う。
【「over the rainbow」君島有純】子連れ離婚経験者同士の恋愛から結婚への経緯を女性の視点で描く。黒部に旅行しながら、回想を交えて、黒部風景と、迷いとまどう主人公の心境を重ね合わせて物語る。地味だが、双方の親子関係を念頭にいれた恋愛なので、恋愛小説というより人生小説に読めるのがミソか。結構複雑な情念を、バランスよく表現している分、突っ込みが不足も感じるが、短いので調和を重視したのかも。風景の清涼感がよく出ている。
【「東京」大水由紀】東京の大学生活の雰囲気を描いたもの。視点の移動で、それぞれの学生背活を書き分けようとしたらしい。よくわからないままでも、とにかく全員が納得してしまうラストが可笑しい。
【「11:59→0:00」加藤小判】彼氏の誕生日祝いのメールを打って着信するまでの時間に、何人かの人の意識を通り抜ける? のかな。思いつきが面白い。表現する内容が小さいときは、こういう表現技術優先の作品を試すのもいいかも知れない。
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