「構想」41号(長野県)=藤田愛子「披露山中毒」など
【「披露山中毒」藤田愛子】
神奈川県逗子海岸ちかくに披露山公園がある。80歳という老齢の亜希が、独りマンション住まいをし、イケメン韓流スターのDVDを観て、時を過ごしている。同じマンションに、青年が住んでいて、彼との交流が心の潤いとなる。親切で優しい彼の勤め先は、地元の役所で、高齢者介護を担当していた、職業意識によるものではないかと、思わせる話。生活の中の心の抑揚を描いて巧み。
【「曇り日の影」新海輝雄】
いわゆる2号さんの子として生まれた主人公の、戦時中から戦後までに経験した、体験談のような形式をとりながら、青春の精神史を描く。学生を兵役に奔らすための官憲の意図的な摘発が行われた世相。それから、香具師の世界に入り、親切にしてくれたノダキの佳代子という女性が異母姉であることを知る。戦時下の異常な社会を背景に描き、味わいの濃い作品。読みようによっては、カフカの作風に照応するような読み方ができる。クリスチャンであることを示す表現も一味違ったものになっており、精神的な深みをもって読める。
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