「構想」41号(長野県)=崎村裕「煩悩障眼」など
【「「煩悩障眼」崎村裕」】
お寺の子に生まれた主人公が、小さい頃から他家に預けられ、地域で経を上げる手伝いをする。そこで知り合った娘と学生時代に恋仲になる。主人公は、別の女性に気持ちを移し、娘に冷たくする。すると、彼女が自殺をはかったことがわかる。
冒頭で、浄土真宗に関する説明があるが、説明の必要性が不明。連載ものだろうと思う。ただ、宗教は説明してもはじまらず、主人公が信じているのか、いないのかを作中に示せばよいのではないだろうか。比較が適当かどうかはわからないが、新海氏の「曇り日の影」では、主人公はあきらかに信の境界を飛び越えており、信者であろうと推察できる。
【「炎の卵球物体」佐々木敬裕】
毒キノコと食べられるキノコとの紛らわしさからくる、キノコ獲得法の話。小説かと思ったら、エッセイだったが、へえ、と思うが、面白い。
【「吾帰農せり」岡本みちお】
サラリーマンをしていたが、定年退職し、亡き父の希んでいた農業をする。故郷で座禅と農家生活を語る。ブルベリーを栽培し、孫に喜ばれる。熊や狐、狸やイタチなどの害で殺生もする。蝶の話もあって面白い。この作者の登場は久しぶりのような気がする。記憶に残る作風である。
【「魯迅の国民性批判と中国の現代(二)」古川双一】
魯迅の生活、精神的の遍歴を語って、当時の中国人の民族性を明らかにしている。洞察よく、論旨一貫しており、説得力あり。勉強になった。
【「佳・第Ⅷ部」嶋田貴美子】
長編なので、あらすじと、主人公の「佳」の本家と、嫁ぎ先の家系図があるのは、わかりやすい。主人公の「佳」が産んだ子が口元に障害があり、その母親としての苦悩と葛藤が本編のすべて。この部分の書き込みを自分は、あまり、好まない気持ちで読みはじめたが、いざ読んでみると、母親の心理と周辺との葛藤が見事に表現され、一気に読んでしまった。筆力に図抜けた才能を感じる。
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