「文芸中部」73号作品より
事務所にどういうわけか、宇田本次郎氏が、やってきていた。同人誌「砂」の編集担当で、原稿を響印刷にもってきたのだという。出光美術館に行って、陶器の名品を見てきたそうで、かなり感銘を受けているようだった。彼は聖跡桜ヶ丘で「陶里庵」という骨董店を経営している。先日、隠れた陶工を求めて、九州まで足を運んだが「目当ての陶工が2月に亡くなっていたんだ。せっかく発見した陶工なのに」と残念がる。こちらは、用事があってお先に失礼。
「文芸中部」73号を電車のなかで開く。井上武彦「異色作家」を読む。井上氏は直木賞候補になった「死の武器」の作者である。これを読んだ三島由紀夫が、その影響で執筆中だった「豊穣の海」の方向が決定付けられたのではないか、という文壇的解釈と作者の解釈の合成された流れを語ることから始まる。それから、瀬戸内晴美が寂聴に変わるまでの交際とその後の、交流を描き、さらに四日市で同級生であった田中小実昌の交流を描く。
前半は、文壇的な知られざるニュース情報を読む感覚で、なかなか面白く読ませられた。それから、どうなるのか、と思って読むと田中小実昌の「異色作家」ぶりが描かれる。このあたりから小説として力が入ってくる。田中の父が神父であったことと、文芸講演に招待し、そのときの再開の様子の一連の描写は、力まずして力が入っており、作者自身のテーマに肉薄していく。この段階で、作者が、いわゆる信仰と小説芸術との関係に、強い関心をもっているのがわかる。それがのっぴきならぬテーマとして浮かび上がってくる。(つづく)
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