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2006年9月 6日 (水)

「孤帆」VOL .10 作品紹介     

同人誌    「孤帆」VOL .10      発行日=060811

【評論「姥捨山と老人の不安」沢村芳樹】

これは、評論であるが、筆者の僕という形で、日本の財政・健康保健制度の概略と人間が死ぬことによって、社会体制の海に浮かぶボートの外に押し出されることの意味を確認している。小説として読むと読者もまた主人公とされる。その意味で、ここには現代のある種の小説において見られる、主人公の自我存在の曖昧さ、実在感の薄さからくる捉えどころのなさという、本号のほか小説のいくつかにも見られるようなわかり難さの欠点をもっていない。小説が、現実から生じる個人の感性のある面を誇張することでも成立する。その際には、主人公が、どのような社会に所属し、どのような制度で生存しているかは、問題にされない。この情報の多い現代において、こうした作風の主人公の姿は、固定しない自我、変貌する人格という特性をもつため、類似の体験をしたものだけが、かろうじてその意味することが理解できるものとなり、普遍性を失う。その反対なのが、時代小説であろう。時代小説において、それが平安時代であるか、江戸時代であるかを示すことなく書かれることは少ない。だから多くの大衆の読者を獲得するのではないだろうか。この評論は、われわれの制度のなかでの社会的存在の意味を追求する力作であるが、こんなことも考えさせられた。

【「RECORD OF ANCIENT MATTERS」塚田遼】

 父と母は兄妹だった。――で始まる「俺」の物語。冒頭が示されているように、犯人が内なるところにあるハードボイルド小説に読めた。

【「遅延」上杉製作】

 ゲームというのをやったことがないので、よくわからないが、すべてゲームのスタイルを導入した小説のようだ。よく現代は、現実とゲームの見境がつかない状況にあるとされるが、まさにこの作品はゲームリアルとゲームバーチャルが交差する。したがって、始まりからバーチャル設定的なものを感じさせる。そこから状況シーンの連続接合で、それからどうしたという物語的面白さはないが、それなりに実験的面白さがある。

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