北一郎の同人誌・小出版 作品紹介(作者名敬称略)
◇◆◇◆◇◆ 同人誌「遠近」(東京都)15号 ◇◆◇◆◇◆
【「銀の光芒」安西昌原】
太平洋戦争末期から戦後にかけての物語。語り手の私は弁護士。戦後の高校時代の担任教師が、娼婦を誤って殺害してしまい、その弁護を頼まれる。交流のなかで教師の告白が述べられていく。戦中に友人たちが兵役に狩りだされていくなかで、結核を患っていた教師は、兵役を免れ生き残るが、それが心に重くのしかかり、娼婦殺害の遠因となっていることを知る。さらに、亡くなった友人に、妹の保護を頼まれ、自分も恋をしていたその女性の自殺により、約束が守れなかった苦悩が語られる。教師は刑に服し、出所後、世間を彷徨するが、ついに鉄道自殺をしてしまう。私は、学校の同窓会名簿から教師の名が、抹消されていることを知り、やりきれない気持になるところで終る。全編に昭和10年代から20年代の時代的悪さを告発する姿勢は一貫している。登場人物と共に、作者自身もまた悪い時代をくぐりぬけてきたのだという印象が強く残った。
「文芸時事月報」平成13年6月号、同人雑誌作品紹介
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