« 鶴樹の「肉体の変奏」-38- | トップページ | 鶴樹の「肉体の変奏」-40- »

2006年8月 5日 (土)

鶴樹の「肉体の変奏」-39-

「では、マダム・クレバーは今どこに? まさか、森のなかで自活しているわけでもないだろうに……」

 鈴木が、けげんそうに尋ねた。

「そうだったらいいのだがな」博士はため息をついた。

「その後、移植に成功したことはしたのだが、手術の後のデラは体調がすぐれず、拒絶反応制御薬の副作用に悩まされていたのだ。……。しばらくは介護する者が必要だ。わたしはもう歳をとりすぎていて、それが充分できない。彼女は体重が百キロ近いのだ。また、場合によれば、彼女を残して、わたしが死んでしまうかも知れない。それも心配だった。……その頃、近くで自動車事故が起きた。三十歳代の若い男が、救急車で運ばれてきた。その時はショック状態で心臓が止まっていた。死んでいたのだ。ところが、わたしの蘇生治療で、偶然というか、奇跡的というか、とにかく生命はとりとめた。……そこへ、たまたま君たちがゴリラの密輸入に使った業者が、雄のゴリラを売り込んできた。そこで、決断したのだ。デラのために、護衛というか、共生というか、協力し合えるゴリラをつくろうとな」

「それじゃ何よ。泰幸さんをゴリラにしたのは、メスゴリラの召し使いにしようとしたわけ?」

 由美が悲痛な声を上げた。

|

« 鶴樹の「肉体の変奏」-38- | トップページ | 鶴樹の「肉体の変奏」-40- »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 鶴樹の「肉体の変奏」-38- | トップページ | 鶴樹の「肉体の変奏」-40- »