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2006年7月22日 (土)

鶴樹の「肉体の変奏」-35-

 女は離婚した妻、由美だった。眼の下から頬にかけて青黒い痣ができている。殴られたのだろう。おれと由美の関係をよく調べたものだ。連中は、かなり大かがりな組織の一員らしい。由美が傷つけられたのは、おれとの秘密の約束を守ろうと、自分の見た事実を言うのに抵抗したためだろうか。どういう訳か、おれの胸に熱いものが胸に込みあげてきた。

だが、今は事の成り行きを見るしかない。おれはこらえた。

「彼女は生田目泰幸の妻だった。ここで、彼に会ったことを教えてくれたよ。椿博士、彼女を知らないとは言わせませんよ。彼女は頭部だけの生田目泰幸と話しをしている。あれは頭脳交換をするまえに、細胞の免疫力を調整する段階らしいな。オードリン博士がその仕組みを教えてくれたよ。われわれは、知っているのだ。そこにいるゴリラが、生田目泰幸だということをね」

 鈴木はおれを指差し、さらにこう言った。

「おい、君の身体は事故の時は、たいした怪我ではなかったはずだぞ。そのことを知らないだろう。椿博士はな、意識不明の君を頭脳交換の材料に利用したのだ」

「ばかを言うな。わたしはそんなことをするわけがない」

 椿博士が振り向いて言った。

 これは、どういうことだ。まったく、何が問題なのだろう。それに、どっちが本当のことを言っているのか、わからない。しかし、これではゴリラがおれであることを白状したことになる。鈴木が、してやったり、という顔をした。

「よし、いいだろう。これではっきりした」鈴木が満足げに言った。「それじゃ、どのように脳移植の手術をしたのか、その記録を出してもらおうか。椿博士」

 鈴木はコートのポケットから拳銃をとり出し、椿博士の胸元に突きつけた。小型のピストルだ。

「地下の手術室の本棚にデータがたくさんある。それを由美が知っていた」

 モーリスが、流暢な日本語で言った。そして、由美の口をふさいでいたガムテープをむしりとった。

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