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2006年7月17日 (月)

鶴樹の「肉体の変奏」-33-

 鈴木が目を大きくして、反論した。

「あなたは、われわれとの契約をまったく無視している。生体臓器交換の基本技術をオードリン博士から伝授されながら、あなたが開発した実用化技術を教えようとしない。完全なものでなくてもよいのだ。これ以上、この研究が外部に知られたら、あなたも命を狙われますよ。すでにヨハネスブルグには秘密組織の奴らが来ているそうだ。CIAやKGBくずれの連中もそのうちに嗅ぎつけてくるのは時間の問題になってきた」

「KGBだのCIAだのと何を時代遅れなことを言っておるのだ。もう冷戦時代は終っているのに。そんな話は脅かしにもならん」

「とんでもない。彼らは、企業秘密や先端技術の情報を各国に売り込み、以前より活発な活動をつづけているのだ。とくにCIAはこの技術を、喉から手が出るほど欲しがるだろう」

「だれが欲しがろうと、生体交換の実用化はオードリン博士や、わたしでもまだ成功させていない。その資料は、すべてIASAに提供してあるさ。君たちは、勘ぐりすぎだよ」

「椿博士。そこまで、言い切るのなら、あなたの奥さんの最後の手術の記録をIASAに提出して欲しい。それをいま、ここで受け取りましょう。……それと、昨年この近くで、乗用車の転落事故がありましたね。運転していたのはは生田目泰幸という男だ。この男が

あなたの医院で治療を受けたきり消息不明になっている。彼はいま、どうなっているのか? 事故後の手術経過と現状を報告しなさい」

「なんで、そんなことを……。あの男は回復して、とっくに退院している。どこでなにをしているかなどまでは、知らん」

 椿医師は、うわずった声で抗弁した。

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