鶴樹の「肉体の変奏」-32-
椿博士の表情が急に険しくなった。
「なにをいうのかね。二つのことがらは、まったく無関係だ。雌ゴリラは、人間のインフルエンザにやられて、命をおとしただけだ。近くの川のほとりに埋葬してある。あとで、調べてみたら判る。いまのゴリラは、闇取り引きの業者に虐待されていたゴリラを買い取ったのだ。かつてわたしの実験の犠牲となったゴリラへの罪滅ぼしの気持ちでな。……いま、この研究室にいるのは、わたしと、ゴリラの銀太郎だけだ。以前に居た二人の研究協力者たちは、研究を中断した時点で解雇した。もちろん、秘密を守るという約束をしてだ。その後間もなく、二人とも新しく就職した研究所で、劇症肝炎ウイルスに感染するという事故で急死したらしいじゃないか。そのいきさつは、事故を仕組んだ君たちの方が、くわしいのではないかね。わたしには判っているのだ。……そこの銃をもったきみ。きみは口髭をつけて、このあたりの写真を撮って、うろうろしていたな。外国人観光客のように見せかけてね。見張り役だな。見張られるのは、かまわないがね。もし、わたしと銀太郎に危害を加えたりしたら、マスコミの注目を浴びると思いたまえ。なにしろテレビ出演をしている、有名人なのだからな」
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