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2006年7月11日 (火)

鶴樹の「肉体の変奏」-31-

「ああ、いつもあなたの助手をされていたデラ夫人のことですね。じつにお気の毒でした。それで、思い出したのですが、あの方はたしか癌で亡くなられていますね」

「そうだ。あれほどわたしに尽くしてくれたのに、医者でありながら、なにもしてやれなかった。あれが、どれだけわたしを支えてくれていたか、いなくなって思い知ったのだ。他人のことなどより、自分の妻の健康を気づかうべきだった」

「これは、われわれが後になって調べたことなんですがね。夫人が全身を癌におかされた末期に、あなたは夫人に手術をしているんです。余命短いと判っている患者にどんな手術がいるんですか? しかも、それから間もなく二頭のうち、雌のゴリラの方が、地下の飼育場から連れだされ、翌日にはもとのところにもどされたと推測できる痕跡がある。もしかしたら、あなたはデラ夫人の脳をそれに移植したのではないですか? そのあと間もなく、雌ゴリラはあなたの飼育場から姿を消してしまいました。これは何を意味しているのでしょうかね」

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