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2006年7月 6日 (木)

鶴樹の「肉体の変奏」-29-

 モーリスという白人は、用心しながらソファに腰掛けた。銃を膝の上に置いたままだ。眼はおれを睨んでいる。

「さっき、手術が失敗に終わったと言いましたな、椿博士。あなたは、ほんとうは手術に成功していながら、我々には不成功だったと、嘘をついていたんじゃありませんか」

 鈴木が疑わしげにおれのそばに寄ってきた。おれはいきなりウォーと咆吼してやった。

「あぶない。それ以上近寄るな。そら、腕力にかけて君たちに負けないぞ。この銀太郎は、わたしの命令に忠実なんだ。ここでの行動には、気をつけたまえ」

 椿医師が、脅しをかけるように言った。鈴木も、さすがに怯んだようだ。

 どうも、危険な連中のようだ。おれは椿医師の後ろに座って彼らを監視した。

「わかりましたよ。穏便にやろうじゃないですか。一度は同士になった仲だ。われわれ国際動物科学研究財団(IASA)は、その基金であなたに生体交換移植の研究を依頼した。いいですか。IASAはあなたの研究成果とその技術をすべて、受け取る権利があるのです。それも秘密裡にですぞ。ところが、最近になってあなたが研究成果を隠し、われわれに報告していないのではないかという、疑いがでてきました。

 おまけに、その研究成果を外部に知られてしまいそうな危険な行動をしている。そう、その疑惑のきっかけとなったのは、あのゴリラのテレビ出演ですよ。IASAとの契約は厳正ですよ。違反者はこの世から抹殺されることもあります。どうも、日本の方は契約の意味を甘く考え過ぎるので、困りますね」

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