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2006年6月16日 (金)

鶴樹の「肉体の変奏」-19-

 帰りぎわにリポーターの律子が、

「でも、この銀太郎ってほんとうに利口ね。わたし、このゴリラが何か考えているような気がしてならないわ。不気味なくらいだわ」という。

「うん。ふしぎな雰囲気をもっているゴリラだ。こいつは人気が上がるぜ。もっと本格的なスペシャル番組で紹介してもいいな」

「そのときも、わたしをリポーターにつかってね。それまでに、ゴリラをもっと研究しておくわ」

「それは、きみの今後の努力次第だよ」

 プロデューサーは意味ありげに、律子の腰に手をまわした。

「水井プロデューサー。わたしに仕事以外の努力を強要しないで欲しいの。こう見えても、自分の才能に自信を持っていますのよ」律子は、水井という男の手をはらいのけ、足早に車のほうへ行ってしまった。

「おい、おい。勘違いするなよ。ぼくをそんな男だと思っているのか。それにしても、もう少し可愛げがあったほうが、才能も生かせるってもんだぜ」と、男は律子を追っていく。

 長いビデオ撮りに疲れたおれは、床に寝そべって、しばらくうとうとした。

 そのうち、椿医師の独り言が始まった。

「ふん、やつらめ。テレビで銀太郎を売りだすつもりだな。まあ、悪くはあるまい。ただのゴリラだと思っているようだから、ひとつおどろかせてやろうじゃないか。だが、許せないのはあの自警団のやつらだ。藪医者だとぬかしおった。わたしが、若い頃どれだけ理想に燃えた心で、医学に志したか、知るまい。わかるか? 理想だぞ」

 老医師は突然大声をあげ、おれを指差し、燃える眼なざしで、迫った。

 おれはいっぺんに眠気が醒めてしまった。

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