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2006年6月14日 (水)

鶴樹の「肉体の変奏」-18-

猟銃を片にかけた連中の言い分は、ゴリラを放し飼いにせず檻に入れるという約束を、椿博士が破ったというのだ。そのことを抗議しにきたのだった。

「人に危害を加えないよう、よく教育してあるという安全の保証はしたが、檻に入れるだの、鎖につなぐだのという約束は、していないぞ」椿医師は反論した。

「安全なのは、檻に入れるってことだろうが」

 肩から銃を下ろしながら、ハンターのひとりが、そう詰めよった。

「わたしのゴリラは安全だ。危険なのはあんた達じゃないか。自分の面を鏡でみてみろ。銃を撃ちたくてうずうずしている顔だぞ。檻に入れなきゃいけないのは、あんた達だよ」

「なんだと、この藪医者めが、いままで幾人の人間を死なせてきたんだ。いつも夜中に、何かをやっているので、気味が悪いと評判だ。今度はばか力のあるゴリラなど飼いやがって、近所迷惑もたいていにしやがれ」

 そう言われて椿博士は、怒りで全身を震わせはじめた。

「おまえなんぞは、口をきけば人の悪口を言うだけだ。嘘をいう分、言葉を使わない猿より劣る。こんど盲腸にでもなってみろ。口と肛門をつけかえて、尻から物を喰い、口から屁がでるようにしてやるぞ」

 これは興奮のしすぎだ。おれは彼を後ろから掴み上げ、身を引かせた。

 周囲から「おお」という驚きの声があがり、一瞬静かになった。

 するとリポーターの律子が、

「そうよ、椿先生のいう通りだわ。この人たちこそ、銃をふりまわして動物を虐待する張本人なのよ。カメラさん。あの銃を写しておいて」

「なに、あなた達はテレビ局なのか。ちょっとまてよ。おれはここの自警団の連中が猛獣がいるというので、確かめにきただけだ。ゴリラとなると、どうしたらいいかわからん。上司に相談するから、俺を映すのはやめてくれ」顎紐の警官が逃げ腰になった。

 ほかのハンター姿の連中も、動物虐待者ときめつけられて、すっかり意気が上がらなくなった。ぶつぶつ言いながら、帰ってしまった。テレビ局の連中も思わぬハプニングが収録できたと、満足して引き上げていった。

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