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2006年6月12日 (月)

鶴樹の「肉体の変奏」-17-

 おれは、あわてて後ろを向き、床に腰をおろした。

これからはゴリラの生態を研究し、ゴリラらしさというのを身につけないと、具合が悪そうだ。とりあえず手元にあるバナナを喰って見せた。うっかり皮をむいて食べてしまったが、ゴリラは果たしてバナナの皮をむくものなのだろうか? さいわい、テレビ局の連中は、あたりまえのように見ているので、かまわないだろう。

「それじゃ、リハーサルだ。椿先生、リポーターが、質問したときは臨機応変に答えてください」

 スタッフのひとりが声を掛けた。

 するとさっきの若い女のレポーターがカメラの前に立った。

「はーい。みなさん。レポーターの畠山律子でーす。きょうの動物家族は、なんとゴリラなんですね。……ここは箱根です。飼い主はお医者さんの椿先生です。話を聞いてみましょう。このゴリラ、名前は?」

「銀太郎です」

「あら、箱根で足柄山の金太郎というのは有名ですが、銀太郎とつけたのは何故?」

「このゴリラは、ほら背中の毛が銀色になっているだろう。これはシルバーバックといって、ゴリラの指導者の資格を持っている印なのだよ」

椿医師は上機嫌で応対している。おれの名が銀太郎だなんて、初めて聞いた。

 そのとき、玄関のあたりで騒がしい気配がしはじめた。

みると帽子に顎紐をかけた警官を先頭にして、ハンターの格好をした男が数人押しかけてきている。

さっき山のなかでおれを追いかけてきた奴らだった。

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