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2006年6月10日 (土)

鶴樹の「肉体の変奏」-16-

取材に押しかけてきたTV局のスタッフは、てっきり動物園でやっているようにおれが檻にでも入っていると思ったらしい。椿医師がカメラに向かっている。山野におれを放し飼いにするまでのいきさつを説明していた。

「さる筋よりだな、情報が入ったのだよ……。悪徳な動物輸入業者がゴリラを密輸入したものの、あまりの高値で買手がつかないでいるというのを教えられた。私はゴリラをどこまで人間に近づけられるか、という実験のため、大金をはたいて手にいれたのだ」

「へえ、どこの業者から、いくらで?」

 プロデューサーらしい男がきいた。

 おれの肉体となっているゴリラの入手先については、おれも大いに興味があった。しかし、

「具体的なことは一切言えない。秘密を守るのを前提で買ったのだ。さる業者からさるルートを経て……。としかいえないな」

 その話になると、椿医師の説明はしどろもどろだ。

「なるほど、ゴリラのことだから、肝心なことは、さるになるわけだ。いいじゃないか、我々は詮索をするのが目的ではない。見ろ、この見事なゴリラを。マウンテン・ゴリラと寝食を共にするのは、世界の動物学者の夢だと聞いたことがある。それをペットにしているのだからな。うけるぜ。これは」

「だけど、このゴリラ。妙な気配をしていると思わない? もしかしたら、私達の話を聞いて、内容が理解できているのじゃないの?」

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