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2006年6月 6日 (火)

鶴樹の「肉体の変奏」-14-

 椿医師はしきりに独り言をいう。ほとんどおれに語りかけているのだ。おれはそれに返事をできないし、しようともしない。どうしても会話が必要なときは、ワープロをつかう。旧式の大きなキーボードを、箸のような棒をつかってタイピングする方法を博士が用意してくれていた。

 彼はおれの身体の健康診断をするのが、いまのところの日課だ。なんでも、ゴリラは体内寄生虫に弱く、風邪も引きやすいのだという。おれの肉体を分析し、機能を完全化することに夢中である。それが孤独と虚無の恐怖から彼をまもっているようだ。

 しかし、彼の内面では、常に何かの葛藤があるらしかった。机に向かって熱心に記録を取っていたかとおもうと、突然ペンを放りだし「これが何になるのだ」と、ため息をつくことが、しばしばあった。頭を垂れてしばらく、すすり泣くこともある。それから、なにやら呟きながら気をとり直し、研究の記録を続けるのであった。

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