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2006年5月28日 (日)

鶴樹の「肉体の変奏」-9-

 それから幾日かは、おれだけが知る孤独なときを過ごした。椿医師の言ったことはほとんど間違っていなかった。昼と夜の区別はラジオでも聞いていないかぎりわからない。食事はない。眠りは椿医師の判断によってその都度、調整卓でセッティングしてくれた。彼は昼夜にわたっておれにかかりきりだった。老齢者には、苛酷な作業だ。さすがにおれにもこんな状態を、長く続けることはできないのが判った。おれのような存在のしかたは、しょせん無理なのだ。

「せっかく命拾いをしたのに、残念だ。どうも限界みたいですね。先生も疲れがひどくなっているようじゃないですか」

「うん、私が倒れたときが、君の命の終わるときだ。だが、わたしは、希望を持っている。心配するな。これしきのことで、今までの研究の成果を無駄にするわけにはいかない」

そこで、椿医師は、思案顔になった。

「じつは、きみの奥さんがしばしば訪ねて来ているのだ。いまのところ、身内にとっては残酷な事態になっているので面会謝絶といってある。だが、いつまでも会わせて貰えないのはおかしいと言い出している。秘密を保つのに、わたしは困っているのだ」

「ああ、由美がねえ。それなら心配はいりませんよ。あいつは、なんでも金で解決することしか、思い浮かばない性格です」

おれは、由美に必ず秘密を守らせるから、会っても大丈夫だと保証した。

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