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2006年5月 1日 (月)

鶴樹の「肉体の変奏」-11-

 そこで、椿医師が望んでいたように、おれの手術の詳細については、他人に話さないという約束を由美からとりつけた。そして押し入れにしまってあった現金の全部を分与し、離婚をした。

 整理して残ったのは四億円強であった。すでにバブルがはじけてきていた。おれは、半分を椿医師の研究費に寄付することにした。

 そのころから、人工臓器の調子が悪くなって、おれは幾度か意識を失うようになっていた。血液循環システムに人工血液のカスがたまり、血栓をおこすのだという。

 いよいよ、最期のときが来たらしい。覚悟をきめていると、医師があらたまって、「生田目君。以前に君の妻君から受け取った一億円は、何に使ったと思うね?」ときいてきた。「治療費でしょう」

「それほんの一部だよ。じつは極秘のうちにゴリラを買ったのだ」

「ゴリラって、生きているのを?」

「もちろん。しかもマウンテンゴリラだ。こいつはそこいらの動物園で見られるロウランドゴリラより進化している種類なのだよ」

「それが、何か……?」

「君は肉体が欲しくはないのかね。私はゴリラやチンパンジーを動物実験をしていた時によく考えたものだ。動物の臓器を人間に使えたら……と。だが、いまの君にはもっと飛躍した発想が必要だ。君の頭脳をゴリラの肉体に供給するのだ」

 椿医師は目を輝かせた。すっかり憂欝病から脱けだしているようだ。

「そうなると、おれはどうなるんです?」

 そう言ってから、またおれは気を失ってしまった。

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