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2006年5月30日 (火)

鶴樹の「肉体の変奏」-10-

 それから間もなく、由美が椿医師に案内されて、地下室にやってきた。

「えっ、なんなの。これ?」

 おれを見て由美は、さすがに顔をひきつらせた。そして、一時おれの視野から外れてしまった。嘔吐しに行ったらしい。

 だが、すぐ気を取り直したようだ。

「でも、あなたは痛みとか苦しいことはないのね。それだけでも良しとしなければいけないのかもね。なにしろ、あの医者に治療費ばかり請求されて、もう一億円も支払っているのよ。最高級の医療機器を使っていると言ってるけれど、これが、そうなの?」

 と、もの珍しげに観察をした。

「デザインは最悪ね。でも、今はこの機械は固定されているけど、将来これがロボットの胴体のように動かせればサイボーグ人間になるんでしょ。それまでするには、あと幾らかかるの?」という。

 彼女の心配はもっともだ。だが、おれにしてみればどうでもいいことだ。おれは、事故のときの車のブレーキの故障が由美か、あの神野という若者の仕業ではないかと、疑っていた。が、もはやそれを追及する気はなくしていた。由美は彼女なりにおれとおれの持っている金のことを心配しているのだ。とはいっても、彼女はおれが、すぐは死なないらしいという事態を知って、内心は早いところ離婚したがっていた。おれはおれで、突然意識がなくなったとしても、全財産が由美に支配されてしまわないように、離婚をして自分の資産を確保しておきたかった。

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