テレビ草創期の光と影描く「世界は俺が回してる」なかにし礼さん
「世界は俺が回してる」を刊行した、なかにし礼さん。「新聞小説の魅力?すぐに読者の反応が分かるのがいい」と語る 今年1月から8月末まで産経新聞朝刊で連載されたなかにし礼さんの小説「世界は俺が回してる」が角川書店から刊行された。作品は、昭和の高度成長期、たぐいまれな独創性と行動力で画期的な音楽番組やイベントを仕掛けた伝説のテレビマンの生涯を描いた。なかにしさんは「昭和のテレビと音楽番組を舞台に、一人のプロデューサーの名を借りて芸能の持つ力、その魅力を伝えたかった」と振り返った。(戸津井康之)(産経ニュース09.12.21)
“ギョロナベ”の愛称で親しまれ、また恐れられた元TBSプロデューサー、故渡辺正文氏をはじめ、登場人物はすべて実名で登場する。
実話がベースだけに綿密に取材を重ねた。「まず最初に大学ノートを持って40人近くの関係者に直接会いました」。一人一人承諾を取り信頼関係を築き、詳細に話を聞いて歩いた。
清濁併せ呑む辣腕(らつわん)プロデューサーの生涯を「美化つもりは一切なかった」と言い、東京音楽祭を成功に導いた輝かしい功績を書き記す一方、不祥事など負の半生も赤裸々に描いた。
なかにしさんに小説家の肩書が加わったのは還暦を迎えてからだ。作詞家として幾多の名曲を世に送り出し昭和の音楽史に名をとどめながらも、時代が平成に変わるころ、「歌ではなく小説でしか書けないものを今、書いておきたい。それが使命ではないか」という思いに駆られたという。
「世界は俺が回してる」を刊行した、なかにし礼さん。「新聞小説の魅力?すぐに読者の反応が分かるのがいい」と語る 作詞家時代は「ずっと頭の中で音楽が聞こえていた」という。だが、平成5年、書く覚悟を固めた時には「頭の中からすうっと音楽が聞こえなくなっていた」と明かす。書こうと決めてから数年かけて夏目漱石やサマセット・モーム、ドストエフスキーの全集を繰り返し読み、意識して作詞家から小説家の頭に切り替えていった。「同じ言葉でも作詞と小説は違う。作詞は短距離選手の筋肉、小説の場合は、マラソンのような長距離選手の筋肉を使うと例えたらいいでしょうか」
「世界は俺が-」は新聞での長期連載。「連日昼から夜9~10時ぐらいまで書く生活でした。書いていて気になったところは事実を確かめるため関係者に電話で確認しながら…」と取材と平行しながらの執筆作業だった。
日々、連載に追われるプレッシャーは?
「それがなかった。私にとってはちょうどいいペース。逆に読者からの反応がすぐにあるから書き甲斐があるんですよ」。音楽家として舞台の喝采(かっさい)を浴びる感覚が蘇ったという。



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